「働き方改革」という言葉が世間に広まり始めたのは2016年ごろからです。
法改正などもあり、多様なメディアで取り上げられました。
この「働き方改革」は、実際の企業ではどのように取り組まれているのでしょうか。
働き方改革の内容をおさらいしながら、働き方改革の具体例や成功例についても確認してみましょう。
働き方改革の概要
働き方改革とは、労働者の多様なライフスタイルに合わせて、企業が多様な働き方を提供できるよう国が推進しているものです。政府は、法改正などに取り組み、企業の労働環境の改善を促しています。
2016年に働き方改革の計画が始まり、2018年6月に働き方改革法案が成立、2019年4月から「働き方改革関連法案」が順次施行されています。働き方改革関連法案とは、労働者の働き方と関連する複数の法律を改正したものです。
具体的には、長時間労働の制限や非正規雇用の労働者への処遇改善など、労働者がより長く安定的に働きやすい内容に改正しています。
働き方改革が推進される背景
働き方改革が推進される背景には、日本の社会が少子高齢化の状態にあることが挙げられます。労働人口が少なくなり、人材不足の状況にある中で、従来の働き方では労働者を集めることができないため、労働環境の改革が必要なのです。
子育てや介護などの家庭の問題が生じた従業員であっても、企業が労働環境や制度を整えれば働き続けることができます。ワーク・ライフ・バランスが実現できる企業であれば、労働者も長く働き続けてくれることでしょう。しかし、そのような多様な働き方を促進する前に、日本は長時間労働をしているのに労働生産性が低いという状態が長い間、問題視されてきたにもかかわらず、改善されてきませんでした。働き方改革では、そのような長年の課題にもメスを入れて解決することに乗り出したのです。
働き方改革の7つの取り組み
働き方改革関連法は、労働に関わる広範囲な法律を現代社会に合わせた形に変わりました。働き方改革は、かなり幅広い分野に及ぶため、どのようなものか捉えきれていないという方も多いことでしょう。
働き方改革についての理解をより進めていくため、具体的に改革が行われている、主に7つの取り組みについて紹介します。
長時間労働の是正
日本では残業して仕事に取り組むことや、休日を返上して働くことを美徳とする文化がありました。戦後復興や高度経済成長でやればやるほど成長するという風潮が今まで続いてきてしまったのかもしれません。
働き方改革では、長時間労働に制限を設けてワーク・ライフ・バランスを実現させることで、労働者の人生をより豊かにし、業務に費やした時間を評価するのではなく、効率的に業務を行うことで生産性の向上を図ることにシフトしました。
雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
正規雇用と非正規雇用の格差を解消することも、働き方改革で取り組む課題の1つです。同一労働同一賃金に先に取り組んでいる諸外国と比較すると、日本の正規・非正規雇用者の賃金格差は大きいといわれています。
多様な働き方を実現して同じ業務に当たったとしても、雇用形態の違いで処遇に差が出るのであれば、労働者の就労意欲と共に生産性の低下を生じさせてしまうことでしょう。
働き方改革で正規・非正規雇用の格差が解消されれば、労働者のライフステージの変化により正規雇用から非正規雇用に変更となったとしても、労働へのモチベーションを保ち、生産性を保ち続けることができるはずです。
柔軟な働き方ができる環境の整備
柔軟な働き方ができる環境の整備も、働き方改革で進めている改革の1つです。新型コロナウイルス感染症の流行で非対面・非接触が推奨され、オフィス外でのリモートワークは図らずも急速に進展しました。
柔軟な働き方の中には、そのような働く場所だけでなく、副業を可能にするなどの柔軟な働き方を整備することも含まれています。
賃金の引き上げ
近年、賃金を大幅に増やす企業が増えてきており、メディアやSNSで話題になっています。これまで、海外の企業と比較すると日本の賃金は停滞を続けているといわれてきましたので、朗報です。
働き方改革には、賃金アップも含まれています。賃金が上がることで、労働者がより豊かな生活を送ることができるよう環境を整えようとしています。
ダイバーシティの推進
働き方改革には、ダイバーシティの推進も含まれています。日本社会が抱える労働力不足の現状を解決するためには、今まで労働に参加しづらかった人材に働いてもらうことが大切です。
性別やさまざまなライフステージにいる人だけではなく、外国人労働者やアクティブシニアなどが活躍できるような環境の整備を推進しています。
再就職支援や人材の育成
日本の企業は、終身雇用という言葉が用いられてきたように、一度入社すると定年まで勤め上げるのが普通でした。しかし一方で、ライフイベントなどで退職し、復職しようと思ってもなかなかしづらい環境でした。
一度退職しても、再就職希望者には再び従業員として働く制度を企業が設けたり、就職希望者に対しての支援を手厚くしたりすることを促しています。
ハラスメントの防止対策
働き方改革では、オフィスで起こり得るパワハラやモラハラなどの迷惑行為「ハラスメント」の防止にも力を入れています。せっかく多様な働き方を用意しても、従業員の意識がついていかなければさまざまなハラスメントが生じる可能性があります。
就業中も含めて、労働者の誰もが働きやすくなるよう環境を整える施策をしています。
働き方改革実現に向けた具体例
働き方改革には、さまざまな問題を解決するための取り組みが含まれていますが、具体的にどのような内容に取り組めば解決できるのか、イメージしづらいと感じた方もいることでしょう。
企業が働き方改革の実現に向けてすぐに取り組むことができるのは、社内制度の整備ではないでしょうか。制度整備に絞って、企業が取り組みやすい具体例を紹介します。
テレワークの導入
テレワークは、コロナ禍で急速に取り組む企業が増えた取り組みです。自宅など、オフィス外の場所で働くことです。
子育て中や介護中など、家庭の事情でオフィスに出勤できない従業員の継続雇用ができることが魅力です。特に事情がなくてもテレワーク勤務を可能にすれば、新たな人材確保にも有効でしょう。
毎日、テレワーク勤務と定めなくても、子どもの発熱時だけテレワークを行うなど、必要な時にフレキシブルに導入できるようにすれば、多様な働き方を実現することが可能です。
フレックスタイム制の導入
フレックスタイム制とは、1日の労働時間のうち必ず勤務する時間「コアタイム」を設けることが知られていますが、コアタイムを設けず、指定時間帯の中であれば出退勤の時間を労働者が自由に選べるようにすることも可能です。
自宅介護をしている方などは、介護ヘルパーが訪問する時間から働きに出ることもできます。子どもの保育園の送迎時間に合わせて出退勤することも可能であり、生活スタイルに合わせた働き方を従業員が選択できます。
短時間勤務制度
育児中の人などが勤務時間を短縮しても働き続けられる制度が、短時間勤務制度です。フルタイムの正規雇用者の場合、これまでは出産や育児などのライフイベントがあり、そのまま働き続けられずに退職やパートに切り替える方もいたことでしょう。
しかし、短時間勤務なら、雇用契約はそのままで勤務し続けることが可能です。従業員が安心して働き続けられるだけでなく、企業は有能な人材を雇用し続けることができるため、両者にメリットがあります。
育児休暇
育児休暇は、産前産後の休暇として女性が取得することが多いものでしたが、産後パパ育休(出生時育児休業)』が2022年10月1日から施行されたこともあり、子どもの父親となる男性にも取得を促す企業が増えています。
産後の短期間、母親のサポートを行うため取得をする人もいれば、長期間の休暇を取得し育児に取り組む男性従業員もいます。育児休暇は、一度家庭生活にどっぷり浸かることで人生を豊かにするだけではなく、「家庭を維持したい」という意志が生まれ、労働意欲にもつながってくる取り組みです。
働き方改革の成功事例
国が推進している働き方改革に取り組み、成功を収めている企業があります。多くの企業の参考にしてもらいたいと、厚労省は取り組み事例一覧を発表しています。
この取り組み事例一覧の中から、代表的なものを3つご紹介します。
トヨタ自動車株式会社
日本の自動車産業のトップメーカーであるトヨタ自動車株式会社は、働き方改革にも積極的に取り組んでいます。成功事例としては、女性従業員により活躍してもらうため、育児・介護の制度を充実させてきました。
子育てを行う労働者は、時短勤務を選択し、さらに在宅勤務制度を組み合わせることで、出産後も同じ所属での勤務を可能としています。女性の子育て支援だけではなく、父親となる男性側の働き方にも仕事と育児が両立できるような取り組みを進めています。
こうした取り組みにより、女性従業員の退職率が減少し、女性幹部や女性技術者が増加しています。
トヨタ自動車(働き方アクションプラン)
トヨタ自動車株式会社(働き方・休み方改善ポータルサイト)
ヤマトホールディングス株式会社
「クロネコヤマト」の名称で有名な大手配送会社のヤマトホールディングス株式会社では「コンプライアンスの厳守」「ダイバーシティの推進」「業務の見直し・効率化とコミュニケーション」の3つの方針を設け、働き方改革に取り組んでいます。
玄関前や宅配ボックスなどへの「置き配」が可能になったとはいえ、ユーザーの多様な要望に応えるには相当な労力がかかります。どうしてもお客さまの都合に合わせがちになる環境にはうなずけますが、長時間労働の解消や定められた休憩時間の取得など、法令遵守を徹底させるため「コンプライアンスの厳守」を方針の1つに掲げています。「勤務間インターバル制度」「定時前退社」など、独自の取り組みを続けています。
三井不動産
大手不動産会社の三井不動産株式会社は、多様な価値観や才能を持った人材が活躍でき、ライフステージに応じた働き方を従業員一人ひとりが選択できる職場環境を目指しています。「意識改革」「インフラ整備」「組織単位での業務改革」の三本柱を実現するため、働き方改革を推進しています。
2016年4月には「働き方企画推進室」を設け、働き方改革を強力に推進し続けています。働き方改革担当の専門スタッフが、従業員の働き方の質を高める意識改革やそれをサポートする制度設定や職場環境整備などを目指しています。
まとめ
働き方改革は、多くの分野の改革を含んでいること、それらに取り組むにはさまざまな方法があることが分かりました。IT機器やシステムの導入が必要なものもあれば、就業規則の整備など、比較的にコストをかけずとも始められるものも多くあります。
従業員のニーズをヒアリングやアンケートなどを用いて調査し、できそうなことから始めてみませんか。
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