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グローバル化が加速する現代において、海外取引は企業成長の大きな鍵となります。しかし、その一方で、国境を越えたビジネスには、国内取引とは異なるリスクが潜んでいることも事実です。

こうしたリスクを軽減し、安心して海外ビジネスができるよう提供されているのが貿易保険です。本記事では貿易保険の種類やリスク、海上保険との違いなどについて詳しく解説していきます。

貿易保険とは

貿易保険とは、日本企業の海外取引における損失をカバーしてくれる保険制度です。戦争やテロ、取引先企業の破綻など、思わぬリスクがつきものである海外ビジネスにおいて、貿易保険は強い味方となってくれます。

貿易保険は輸出入や投資、融資などの海外取引で発生するさまざまなリスクを補償します。例えば、戦争やテロによる輸出入の中断や損害は大きなリスクの一つです。また、海外の取引先企業が破綻して代金が支払われない場合も、貿易保険がその損失をカバーします。さらに、政治情勢の悪化によって送金が規制されたり、事業活動が制限されたりするリスクも補償対象です。

その他にも、自然災害や海難事故などが引き起こす損害についても貿易保険は対応しています。これらのリスクを包括的にカバーすることで、貿易保険は国際取引を行う企業にとって不可欠なものとなっています。

貿易保険が生まれた背景・歴史

日本の貿易保険制度は、1930年に始まりました。輸入超過の状態を改善し、輸出を促進するために設立された輸出補償法が第58回帝国議会で可決され、輸出手形の損失を国が一部補償する仕組みが導入されたのです。1937年には、国際情勢の変化に対応し、補償率の引き上げや手形不渡り時の損失補償などを含む、輸出補償法中改正法律が制定されました。しかし、太平洋戦争などの影響でこの制度は機能しなくなったのです。

戦後、日本政府は輸出振興を目指し、1950年に輸出信用保険法を制定し、現在の貿易保険の基盤を築きました。この制度は戦後の経済復興に大きく貢献しました。

貿易保険と海上保険の違い

貿易保険と海上保険は、どちらも国際貿易に関わるリスクを補償する保険制度ですが、それぞれ補償対象に大きな違いがあります。

海上保険は、貨物の損害や滅失、運賃の損失、さらに積荷の遅延による損失をカバーします。一方、貿易保険は、戦争やテロ、自然災害などの非常危険に加えて、取引先企業の破綻、不払いなどの信用リスクが補償対象です。

このように、貿易保険と海上保険はそれぞれ異なるリスクを補償する役割を担っています。国際貿易を行う際には、それぞれの補償内容や対象となる取引を理解し、適切な保険に加入することが重要です。

貿易保険の種類

貿易保険には、契約の締結方法によって個別保険と包括保険の2種類があります。

まず、個別保険とは、特定の取引にリスクを感じる企業や、海外取引の経験が少ない企業向けの保険です。この保険は、特定の取引に対してのみ適用されるため、包括保険に比べて保険料が高めに設定されており、厳しい引受基準が設けられています。

一方、包括保険は、複数の取引先との継続的な海外取引を行う企業向けの保険です。さまざまな国やバイヤーとの取引が対象となり、リスクが分散されるため、保険料が割安に設定されています。

次に、個別保険と包括保険の具体的な保険商品についてご紹介します。それぞれの保険の特徴を理解し、ニーズに合った保険を選べるようにしましょう。

個別保険

ここでは、3つの個別保険についてご紹介します。

まず1つ目が貿易一般保険(個別)です。この保険は、日本からの直接貿易や日本以外からの仲介貿易を対象とし、輸出者がそれぞれの取引ごとに選択して保険契約を締結します。

2つ目は、中小企業・農林水産業輸出代金保険です。この保険は、資本金10億円未満の中小企業や農林水産業団体が輸出した製品の代金回収リスクを補償する保険です。ただし、船積後に発生するリスクにのみ適用され、船積前のリスクは対象外となります。利用条件としては、1回の取引金額が5,000万円以下で、決済期限が船積から180日までとされています。

3つ目は、限度額設定型貿易保険です。この保険は、特定の取引先と定期的に一定額の取引がある場合に適しています。設定した補償限度額の範囲内で、船積前のキャンセルや船積後の代金回収不能リスクを補償します。この保険は取引先ごとに1年間有効な保険金支払額を設定でき、日本以外から出荷する貨物も対象です。

包括保険

次に、4つの包括保険についてみていきましょう。

前払輸入保険は、輸入契約に基づいて前払金を請求しても返金されなかった場合のリスクをカバーします。この保険を利用するためには、日本以外からの輸入であること、前払金が100万円以上であること、契約書に前払金の返還条件が明記されていることなどの条件を満たす必要があります。

海外投資保険は、外国政府などの介入や天災、戦争などによるリスクを補償する保険です。この保険は、海外での出資、株式購入、不動産取得などが対象となります。

海外事業資金貸付保険は、海外事業への投資や融資に関するリスクを補償する保険です。特に事業拡大や国際的な金融取引に関わる個人や企業向けに設計されています。この保険は、貸付先企業の所在する国や地域の事情、または取引相手の信用状態の悪化などにより、貸付金の回収が困難になった場合に、その損失を補填します。

貿易代金貸付保険とは、日本の銀行などが海外の輸入業者や金融機関に対して輸出品の代金として融資を行った場合、その融資が回収不能となった際のリスクをカバーする保険です。

貿易保険の対象となる2つのリスク

貿易保険の対象となるリスクには次の2つがあります。

非常危険

非常危険とは、契約当事者に責任がない不可抗力的なリスクのことです。これには、戦争、テロ、革命、輸入制限、為替取引の規制、自然災害などが含まれます。

例えば、取引相手国で戦争が起こり、商品の輸送や受け取りが困難になる場合や、テロ行為により輸送路が遮断されるケースです。また、地震や台風、洪水などの自然災害も該当します。これらは主に相手国の情勢に起因し、予測不可能なため、貿易保険でカバーされます。

信用リスク

信用リスクは、取引相手の行動や状況が原因で発生するリスクです。これには、支払い不履行、破産、送金制限などが含まれます。

例えば、取引相手が代金を支払わない、破産して債務を履行できない、あるいは相手国政府が送金に制限をかけることで代金を受け取れない場合などです。信用リスクは主に取引相手の財務状況に起因し、完全に予測することは難しいため、貿易保険で補償されます。

貿易保険のメリット&デメリット

貿易保険にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。詳しくみていきましょう。

貿易保険のメリット

貿易保険は、政府が輸出促進のために提供している制度であり、海外取引における最大の不安である非常危険や信用リスクをカバーしてくれます。つまり、政治情勢の急変や取引先の倒産など、想定外の事態が発生した場合でも、保険金が支払われることで、企業の損失を最小限に抑えることが可能です。特に、リスクの高い国との取引においては、貿易保険の活用が非常に有効となるでしょう。

貿易保険のデメリット

貿易保険には、手続きの煩雑さという側面も存在し、これが大きなデメリットといえます。保険金が支払われるまでに時間がかかることがあり、企業にとっては迅速な対応が難しい場合があります。

さらに、以前は保険金が支払われた後も、輸出者に債権回収の義務が課せられていましたが、現在ではNEXI(株式会社日本貿易保険)に委任することが可能になりました。しかし、NEXIが債権回収不能と判断するまで、輸出者は回収活動を続けなければなりません。つまり、輸出者が回収を諦めたいと思っても、NEXIの判断が下るまでは、回収活動を継続する必要があるのです。これは、輸出者にとって大きな負担となる可能性があり、貿易保険のデメリットといえるでしょう。

貿易保険における公的保険と民間保険の違い

貿易保険は、かつては政府が運営していましたが、現在では政府全額出資のNEXIが公的保険を提供しています。近年では、民間保険会社による貿易保険も増加しており、輸出企業はそれぞれのニーズに合わせて最適な保険を選択しなければなりません。

公的保険と民間保険は、主に、提供主体、提供形態、対象リスク、補助金・サービスの面で違いがあります。それぞれの違いについて詳しくみていきましょう。

提供主体

公的保険は、政府全額出資のNEXIが提供している一方、民間保険は民間の保険会社が提供しています。

提供形態

公的保険は、政府がその運営を支援しているため、安定性が高く、保険金の支払いが確実であるという点がメリットです。一方、民間保険は市場経済の原則にしたがって、契約条件や保険料は市場競争によって決まります。競争が活発なため、より柔軟な条件や保険料設定が期待できるでしょう。

対象リスク

公的保険は、政治的リスク、輸出先国の経済不安定さ、決済リスクなど、公的機関が重要視するリスクに焦点を当てています。一方、民間保険は商業的リスク、商品損傷、自然災害、輸送中の事故など、より広範囲なリスクに対応している点が特徴です。

補助金・サービス

公的保険は、政府の補助金やサービスと連携し、輸出企業にとって保険料が手頃になったり、幅広いサポートを受けられたりするケースがあります。一方、民間保険は市場競争が原則であるため、公的保険と比べると契約条件や補助金は柔軟ではありません。ただし、複数の保険会社から選択できるという利点があります。

まとめ

貿易保険は、海外取引に伴うさまざまなリスクをカバーすることで、輸出企業の活動を積極的に支援する役割を担っています。

公的保険と民間保険、それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、自社のニーズに最適な保険を選択することで、海外ビジネスにおけるリスクを最小限に抑え、事業の安定的な成長を実現できるでしょう。

貿易保険は、リスクをカバーしてくれますが、リスクを完全に回避することはできません。貿易保険だけに頼るのではなく、日々の業務を整理し、リスクを未然に防ぐことも重要です。

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