将来の成長や競争上の優位性を確率するため、さまざまな業種や業態でDX(デジタルトランスフォーメーション)が推し進められていることはご存じの方も多いでしょう。2021年9月にはデジタル庁が発足し、民間企業のDXだけでなく、全国の自治体のDXも求められています。
本記事では、自治体DXとはなにか、急務と言われる背景や取り組み事例などを紹介します。
自治体DXとは?
自治体DXとは、自治体が担う行政サービスについて、最新のデジタル技術やデータを活用し、住民の利便性や職員の負担軽減を図ることです。自治体DXを推進するためには、DXの意義を住民などと共有しながら進めることが重要です。
民間企業が行うDXは、将来の成長や競争力強化といった自社の利益が目的です。一方で、自治体のDXの目的は、住民の利便性や行政サービス向上、職員の負担軽減などを目的に取り組まれています。
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なぜ自治体DX推進は急務なのか?
企業のDX推進と同様に、自治体のDX推進も急務の課題となっています。なぜ、自治体DXの推進が急がれているのでしょうか。自治体DX推進が急務とされる背景について解説します。
少子高齢化
自治体DXの推進を急ぐ大きな背景にあるのが少子高齢化です。日本の人口は減少傾向にあり、2050年には国内総人口が1億人を下回ると予測され、深刻な問題とされています。
現在の自治体の業務には、多くの人手が必要です。少子高齢化により職員が不足すると、人手不足に陥り、行政サービスなどの維持ができなくなることが懸念されています。
新型コロナウイルス
世界的大流行(パンデミック)となった新型コロナウイルスも、自治体DX推進の必要性と推進の急務を認識するきっかけです。
経済や社会のあらゆる場面で非対面・非接触が求められる中、自治体が担う業務の多くはオンライン化が未着手であることが浮き彫りになりました。自治体にはいまだ紙文化が残っていることもあり、時間と手間がかかるだけでなく、感染リスクが高まることも問題視されています。
2025年の崖
経済産業省が2018年に発表した『DXレポート』で、DXが実現できないことによってどのような事態に陥るかを表した言葉が「2025年の崖」です。DXの実現がなされない場合、2025年以降に最大12兆円もの損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしています。
DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(経済産業省)
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総務省が提唱する自治体が取り組むべき6つのポイント
総務省が発表した『自治体DX推進計画』では、それぞれの自治体が重点的に取り組むべき内容を6つの重点取組事項として定めています。6つの重点取組事項とはどのような内容なのか、それぞれの項目を詳しく解説します。
自治体デジタル・トランスフォーメーション (DX)推進計画 【第 2.0 版】(総務省)
自治体情報システムの標準化・共通化
これまで自治体の情報システム運用は各自治体に任せられていたため、それぞれの自治体が独自の運用を行ってきました。
総務省が発表した『自治体DX推進計画』では、自治体の主要な17の業務について、国が策定した標準システム導入を義務付け、原則2025年末までの移行を目標として掲げています。自治体情報システムの標準化および共通化により、手続きの簡素化や迅速化が期待できます。
マイナンバーカードの普及促進
自治体のDX推進には、マイナンバーカードの普及が欠かせません。マイナンバーカードとは、日本の住民票を持つ全住民に行政が発行する、12桁の番号が記載された顔写真入りカードです。
マイナンバーカードがあれば、オンライン上で各種証明書の発行ができたり確定申告ができたりと、さまざまなメリットが得られます。自治体の担う業務の効率化も期待できるため、自治体DXに重要な取り組みとして普及を促進しています。
テレワークの推進
働き方改革に加え、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、多くの民間企業が従来の働き方を見直し、テレワークの推進が行われました。自治体の業務においてもテレワークが推進されているものの、自治体の業務は対面での窓口業務が多く、テレワークの普及が進んでいません。
政府主導による自治体テレワーク推進実証実験を行うなど、積極的なテレワークの推進が行われています。
行政手続のオンライン化
国と自治体で連携を取るために、マイナンバーカードを活用した行政手続きのオンライン化「マイナポータル」の取り組みも進められています。
マイナポータルとは、子育てや介護といった行政手続きのオンライン窓口です。マイナンバーカードの使用で行政手続きを行えるだけでなく、自身の情報確認や行政機関からのお知らせ通知などのサービスが受けられます。
AI・RPAの利用推進
自治体において膨大な時間を費やしている事務作業の負担は、AIやRPAを導入することで大幅な軽減が見込めます。少子高齢化に伴う人手不足も、AIやRPAの利用推進によって補えるでしょう。
総務省でも『自治体におけるRPA導入ガイドブック』を公表し、自治体のAI・RPAの利用を推進しています。
自治体におけるRPA導入ガイドブック(総務省)
セキュリティ対策の徹底
セキュリティ対策の徹底も、自治体DX推進に欠かせません。行政手続きのオンライン化やテレワークにより利便性は高まりますが、一方で個人情報の流出リスクが高まります。自治体がサイバー攻撃の標的となった場合には、住民の個人情報が流出する恐れもあるでしょう。
自治体のセキュリティ対策の徹底には、システム導入や人材確保に加え、職員のネットリテラシー向上の取り組みも必要です。
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自治体DXの課題
自治体DXの推進を行うにあたり、どのような課題があるのでしょうか。自治体DXを実現するためにも、自治体が抱えるDXの課題を確認しておきましょう。
職員数の減少
総務省が発表した『地方公共団体の総職員数の推移』によると、総職員数は平成6年のピークから平成28年までは一貫して減少し、その後は横ばいから微増傾向にあります。
職員数の減少は、一人当たりの業務量の増加につながります。業務量の負担が増加する中での人員や作業時間の確保は、自治体DXの課題といえるでしょう。
地方公共団体の総職員数の推移(総務省)
職員の意識の改革
自治体DXの実現において、最も重要な課題といえるのが、職員の意識の改革です。すでにパソコンを用いて作業をしている場合も多く、改めて時間や手間をかけてDXを促進することに否定的な意見も少なくありません。
自治体DXは単なる業務のデジタル化ではなく、「デジタル化により住民の利便性や行政サービスの向上を図るための取り組みである」という意識を、全職員が持つ必要があります。
組織内の役割や権限の明確化ができていない
自治体職員がDX推進の意識を持てたとしても、組織内の役割や権現に関する問題が課題として残ります。
民間企業の場合、組織全体をまとめる経営者や役員が権限を持っています。しかし、現況の自治体ではどのような人物に役割や権限を与えるのかが明確化できていません。役割や権限の明確化がなされていないことは、自治体DXの推進を阻む課題となっています。
DX人材の採用と育成
DX人材とは、デジタル技術やデータ活用に精通していることに加え、DXの取り組みをリードできる人材を指します。
DXは民間企業でも推進されているため、DX人材の獲得競争は年々激化しています。自治体DXの推進には、優秀なDX人材を確保するだけでなく、人材育成に力を入れる事も重要です。
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自治体がDXを成功させるポイント
すでにDX推進を行なっているものの、思うように進んでいないという自治体も少なくありません。自治体がDXを成功させるためには、おさえるべきポイントがあります。
組織全体で取り組める体制の構築
新システムを導入したりマニュアルの改善を行なったりと、自治体DXは大掛かりな取り組みです。自治体内の部署や職員が個別に動くのではなく、連携して動ける体制を構築することが、自治体DXの成功につながります。
計画的に取り組む
自治体DXは、短期間で成果がでる取り組みではありません。住民の利便性向上や職員の業務効率化といった成果につながるまでには、数年の期間を要するといわれています。すぐに効果が出ないからといって中断することがないよう、しっかりとした計画を立て、組織全体で取り組みましょう。
目的の明確化
自治体DXは、住民の利便性や行政サービスの向上のための手段であり、目的そのものではありません。しかし、DXを推進するうちにDX自体が目的となってしまうケースがあります。DX化が目的になってしまわないためにも、DX推進の目的を明確化し、組織全体で共有が必要です。
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自治体DXの取り組み事例
自治体のDX推進を行うためには、成功イメージを持つことも大切です。成功イメージを持つためには、各自治体の取り組み事例を参考にするとよいでしょう。
総務省は、全国の自治体が実際に取り組んだDX事例を紹介する『自治体DX推進手順書参考事例集【第1.0版】』を発表しました。ここでは、その中からいくつかの取り組み事例を紹介します。
『自治体DX推進手順書参考事例集【第1.0版】』には、ここで紹介する取り組み事例以外にも、数多くの事例が掲載されています。ぜひ、参考にしてください。
自治体DX推進手順書参考事例集【第1.0版】(総務省)
AIチャットボットを使った自動応答
高知県香美市では、住民対応の迅速化と住民サービスの向上を図るため、AIチャットボットサービスを使った自動応答を実施しています。このAIチャットボットは、高知工科大学の学生と香美市が連携しながら構築したものです。
24時間365日、役所が開庁していない土日や夜間でも問い合わせ・対応が可能となり、職員の業務効率化にもつながっています。
電子申請の導入
新潟県が積極的に取り組んでいるのが、電子申請の導入です。
県単独で、オンライン化について検討可能な行政手続きの数を整理しました。その中から、処理件数が多く、オンライン化されていない手続きに優先順位をつけ、電子申請の導入に取り組んでいます。手続きのため役所へ出向く必要がないため、住民の利便性向上を実現しています。
RPAの導入
北海道北見市では、バッグヤードだけでなく、受付窓口のシステム化を進めています。住民基本台帳事務において、大きな業務量を占めている受付後の事務処理について、定型的な入力処理を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入しました。
処理速度の向上により市民の待ち時間が短縮できるだけでなく、職員がより優先すべき業務に集中できるようになりました。
テレワークの推進
新型コロナウイルス拡大により、自治体でもテレワークが推進されています。しかし、テレワークを行う職員の、勤務状況の管理が課題となっていました。
京都府では、勤務状況を管理を行うため、 職員のパソコンへのログイン・ログアウト情報を既存システムへ連携させ、出勤状況を一元的に管理するシステム改修を実施しました。手間なく且つ正確に出退勤状況を管理できるようになり、テレワークの推進に成功しています。
オープンデータの活用
オープンデータとは、公共データを機械判読に適したデータ形式で、誰もが二次利用を可能とするルールによって公開されたデータのことです。
愛知県の7市町(瀬戸市や尾張旭市など)は、オープンデータの推進を図る目的で組織する「オープンデータ推進会議」を設置しました。オープンデータを活用し、自治体ごとに取り組むよりも広範囲な地域で利便性の向上を図ることで、地域全体のさらなる活性化を目指しています。
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まとめ
自治体のDXは、住民の暮らしをより良くするための重要な取り組みです。自治体DXを推進するためには、自治体が抱える課題や成功させるポイントなどを知っておくことが大切です。自治体の取り組み事例も参考にしながら、自治体DXを実現しましょう。
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