企業が成長し続けるためには、従業員の安全と健康が不可欠です。しかし、職場には目に見えない危険が潜んでおり、事故や健康被害のリスクは常に存在します。
そこで重要となるのが、リスクアセスメントです。リスクアセスメントは、職場に潜む危険を事前に特定し、適切な対策を講じることで、安全な職場環境の実現を目指すための取り組みです。
本記事では、リスクアセスメントが必要な理由や進め方を詳しく解説します。
リスクアセスメントとは、職場の危険を特定し、従業員の安全と健康を守るためのプロセスです。機械の動作範囲や騒音、長時間労働による健康への影響など、職場環境におけるさまざまなリスクを洗い出し、その重大性を評価します。そして、リスクレベルに応じて、作業手順の見直しや保護具の着用、作業環境の改善など、適切な対策を立案・実施します。
リスクアセスメントは、職場環境の変化や新しい作業内容に応じて定期的に見直し、継続的に安全を確保することが重要です。
2006年4月1日に改正された労働安全衛生法により、事業者の職場安全確保への努力義務が課せられました(※1)。具体的には、事業者は職場のリスクアセスメントを実施し、その結果に基づき労働者の安全対策を講じなければなりません。
リスクアセスメントは、危険性や有害性が変化した場合、または変化する可能性がある場合に実施します。ただし、製造業など厚生労働省令で定める業種以外では、化学物質等を取り扱う場合を除き、対象外となります(※2)。
厚生労働大臣は、事業者が適切かつ有効な安全対策を実施できるよう、業種や作業ごとに技術的な指針を公表しています(※3)。それらの指針に従い、事業者またはその団体に対して必要な指導や援助を行うことが可能です。これらの措置を通じて、労働者の安全と健康をより一層確保していくことが期待されています。
従業員の安全と健康を守るには、職場におけるリスクアセスメントが欠かせません。リスクアセスメントは、事故が起きてから対応する従来の安全対策とは異なり、潜在的な危険を事前に特定し、対策を行うことで事故や労働災害の発生を未然に防ぐための取り組みです。
さらに、リスクアセスメントは安全な職場環境を実現するだけでなく、企業の社会的責任を果たし、企業価値を高めることにもつながります。企業規模に関わらず、すべての事業者が積極的に取り組むべき重要な経営課題といえるでしょう。
従業員の安全確保は企業の成長に欠かせません。その有効な手段がリスクアセスメントです。
職場環境の潜在的な危険を特定し、適切な対策を行うことで、災害発生率の大幅な減少につながります。また、従業員間でリスク情報を共有し、安全対策を議論することで安全意識の向上、より安全な職場環境構築が可能となるでしょう。
さらに、安全対策を重視する企業姿勢を示すことは、顧客や取引先からの信頼獲得、企業価値向上にも貢献します。安全な職場環境は、従業員満足度やモチベーション向上、人材確保にもつながるため、企業は積極的にリスクアセスメントに取り組むべきでしょう。
リスクアセスメントを効果的に実施するためには、経営トップがリーダーシップを発揮し、現場の声を重視した体制を構築することが重要です。
まず、経営トップはリスクアセスメントの重要性を全社員に明確に示し、真剣に取り組む姿勢を示す必要があります。その上で、現場経験豊富な社員をメンバーとした推進チームを立ち上げ、現場の隅々までリスクを洗い出す体制を整えましょう。
従業員が安心して意見を言える環境を作るため、アンケートやヒアリングなどを活用し、安全衛生委員会などで従業員代表が意見交換できる機会を設けることが重要です。現場の声を反映することで、より実効性の高いリスクアセスメントが可能になるでしょう。
リスク特定後は、事業場トップが全体を統括し、安全衛生管理者を中心に具体的な対策を策定します。専門性の高い分野は、専門知識を有する者が担当します。
リスクアセスメントは、職場環境や作業内容の変化に合わせて定期的に見直し、改善を加えることが重要です。担当者への継続的な教育や訓練を通じて、最新の情報や知識を共有しましょう。
リスクアセスメントは、次の5つのステップで進めます。
安全な職場環境を確保するために、まずは潜在的な危険性や有害性を特定する必要があります。厚生労働省の「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」に基づき、作業手順書、過去の労働災害事例などを収集することで、職場に潜むリスクを洗い出すことが可能です(※4)。
収集した情報をもとに、具体的な状況、発生する可能性のある事象、そして最終的な結果を明確にすることで、災害発生プロセスを予測します。
作業上の危険因子によって引き起こされる可能性のある労働災害や健康障害について、その影響の大きさと発生しやすさを考慮し、総合的にリスクを見積もります。現場の意見も踏まえ、複数人で客観的なデータに基づき評価することで、効果的な対策の優先順位付けが可能になるでしょう。
リスクへの対策を検討する際には、まず法令遵守を徹底することが大前提です。その上で、リスクの高さを評価し、優先順位を明確にします。具体的には、リスクが高いものから順に安全衛生対策を行っていきます。
それぞれの対策内容は、リスクの特性や重大性に応じて適切に決定することが必要です。
検討したリスク低減措置内容をもとに、具体的なリスク低減策を実行します。まずは、業務の計画段階から危険な作業や原料を排除することを最優先に行いましょう。
もし、作業や原料の排除が難しい場合は、設備の改善や作業手順の見直しなど、物的・管理的な対策を導入します。個人用保護具の使用は、これらの対策を講じてもなおリスクが残る場合の最終手段とします。
リスクアセスメントの結果は、対象物、作業内容、特定された危険性やリスク、そして具体的なリスク低減措置といった内容を、掲示などを活用して、作業員全員に周知することが重要です。
また、リスクアセスメントは継続的に行い、結果を分析して次年度の安全衛生目標・計画に反映することで、職場環境の安全性を向上させていきましょう。
リスクアセスメントは、あらゆる業界において安全な職場環境を築くための基盤となりますが、その評価軸は業界によって大きく異なります。ここでは、業種別のリスクアセスメントのポイントをご紹介します。
製造業は大型機械や重量物を取り扱うため、転倒や挟まれなど労働災害のリスクが高い業界です。人手不足による作業量の増加は、従業員の健康被害にもつながっています。
死亡事故を防ぐには、危険な作業の排除・変更を最優先に、それが難しい場合は作業環境の改善や安全装置の導入が必要です。安全カバーやセンサー、防火装置など、リスク低減策を徹底しましょう。従業員を見守るシステムなど、ITを活用した安全管理も有効です。
建設業は死亡災害発生率が高く、その多くが墜落や転落、転倒、激突によるものです。その背景には、重層的な請負構造による安全対策の不徹底が挙げられます。
そこで、労働安全衛生法では、建設現場の安全確保のため、元請け企業による統括管理と、関係請負人を含めた安全衛生責任体制の構築が規定されています。
多様な事業者と作業内容が混在する建設現場では、綿密なリスクアセスメントが欠かせません。各事業者は、計画段階から設備や配置の問題解決に時間をかけることが重要です。
高齢化が進み、介護の仕事に従事する人材の需要が高まっていますが、現場では労働災害の増加が深刻化しています。職員は、利用者の食事や入浴介助など、体力的に厳しい業務をこなしながら、転倒や車椅子事故、利用者からの暴力といったリスクにも常に隣り合わせです。また、腰痛などの身体的負担も少なくありません。
利用者の安全をしっかりと守るためにも、職員が健康で安心して働ける環境作りが欠かせません。そのためには、まず日々の業務における負担要因をしっかりと分析し、効果的な対策を行う必要があります。
医療現場では、患者の安全を守るだけでなく、そこで働く職員の安全確保も重要な課題です。看護師をはじめとする医療従事者は、患者の移動に伴う業務による身体的負担や、薬剤や感染症への曝露など、特有のリスクに日々直面しています。さらに、夜勤や長時間労働といった勤務形態も、職員の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため、医療現場のリスクアセスメントでは、これらの特有のリスク要因を特定し、適切な対策を行うことが不可欠です。具体的には、作業環境の改善、感染予防対策の徹底、労働時間の適切な管理、メンタルヘルスのサポート体制の構築など、多岐にわたる取り組みを進めていく必要があるでしょう。
保育所・幼稚園・小学校では、子どもたちと職員の安全と健康のために、施設環境の整備が重要です。重いピアノの転倒防止や、角の保護、段差解消など、施設内の環境整備は怪我防止のために欠かせません。
また、園児の午睡中の暗い環境や高温多湿な調理室など、職員の体調不良リスクにも配慮が必要です。安全な環境作りを徹底し、子どもたちと職員にとって、よりよい施設を目指しましょう。
リスクアセスメントは、安全な職場環境を構築し、企業の社会的責任を果たすための重要な取り組みです。企業が持続可能な成長を遂げるためには、災害リスクへの備えも欠かせません。しかし、災害備蓄品の管理には、期限切れによる廃棄などの課題が残ります。
Musuteは、企業が抱える防災備蓄品の廃棄問題を解決するためのプラットフォームです。Musuteを活用すれば、期限切れが近い食品などを必要とする団体に寄付することができ、フードロス削減やCSR活動に貢献できます。従業員の安全を守りながら、社会貢献にもつながるMusuteの導入をぜひ検討してみませんか。