災害大国とも呼ばれる日本において、命を守るために、防災備蓄品・防災グッズなどの備えは欠かせません。

しかし、いざ準備しようと思っても何から備えればよいのかわからなかったり、ハードルが高く感じられたりして、先延ばしになっているという方も多いのではないでしょうか。

そのような方にぜひ知っていただきたいのが、防災をこれまでより身近なものとして捉える「フェーズフリー」という考え方です。フェーズフリーは、平常時と災害時を切り分けない新しい防災の考え方として、最近注目が集まっています。

本記事ではフェーズフリーとは何か、くわしく解説します。フェーズフリーの商品やサービスの具体例、企業でできる取り組みについてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

フェーズフリーとは?

フェーズフリーとは、防災の専門家である佐藤唯行氏によって提唱された概念で、「平常時に利用されるすべての商品およびサービスが持つ、災害時に役立つ付加価値である」と定義されています。フェーズフリーの意味を、もう少しくわしく見ていきましょう。

フェーズフリーの意味 

フェーズフリーは、平常時(日常時)と災害時(非常時)を2つのフェーズ(社会の概念)に分けて捉えるのではなく、平常時はもちろん、災害時にも使用・利用できるようにデザインしようという考え方です。

これまで、防災用品というと非常時にのみ使用するイメージが一般的でした。それに対し、フェーズフリーは普段の生活でも快適に活用でき、非常時にも役に立つ商品・サービス・アイデアです。

日常的に利用している商品やサービスを非常時にも利用できるので、「災害に備える」という意識をあまり持たなくても、もしもの時に備えられる防災の新しい概念と言えます。

フェーズフリーが注目されている背景

フェーズフリーが注目されている背景には、近年、地震や洪水など、日本国内で多くの災害が発生していることがあります。とくに2011年に発生した東日本大震災は、企業においても家庭においても、防災意識が高まるきっかけになったのではないでしょうか。

災害はいつ発生するかわからないので、いざという時のために、日頃から防災用品などを備えておく必要があります。しかし、非常時にしか使わないものを購入し、いつでも使える状態で管理しておくというのは容易ではありません。

そのような背景もあって、フェーズフリーの備えずに防災できる考え方に注目が集まっているのです。フェーズフリーでは災害に向けて特別な備えをするのではなく、日常的に利用し循環させながら、災害時の対応も可能にしていきます。

普段から使い慣れているものであれば使用方法に迷うこともなく使えますし、消費期限や使用期限、在庫数の把握もしやすいでしょう。また、非常時にしか使わない防災用品のために収納スペースを割かなくてよいので、収納場所が少ない家庭でも取り組みやすいというのもフェーズフリーの特徴です。

災害時には精神的な負担が大きくなります。そのような時に、普段使用しているものを使って平常時に近い生活ができることは、安心感にもつながるでしょう。

フェーズフリーの5原則

一般社団法人フェーズフリー協会によると、フェーズフリーは「常活性」「日常性」「直感性」「触発性」「普及性」という5原則に基づいた商品・サービスによって実現される、とされています。この5原則によって、フェーズフリーの目指す方向性が示されています。

それぞれの内容を見ていきましょう。

常活性

常活性は「どのような状況においても利用できること。」とされています。

日常的な活用はもちろん、非常時にも快適に活用できる商品・サービスであるという、フェーズフリーに不可欠な性質です。平常時・災害時を問わず幅広いシーンで役立ち、高い機能を発揮できる商品やサービスは、常活性が高いと言えます。

日常性

日常性は「日常から使えること。日常の感性に合っていること。」とされています。

日常的に身の回りにあり、心地よく利用できるという性質です。普段からその商品やサービスを快適に利用していれば、災害時にもすぐに利用できます。普段から使いたくなるような機能や仕様の他、手に入りやすさ、販売のしやすさなどの要素も大切です。

直感性

直感性は「使い方、使用限界、利用限界がわかりやすいこと。」とされています。

使用方法、消耗・交換時期などがわかりやすく、誰もが使用・利用しやすいという性質のことです。いざという時にもすぐ利用できるような直感性を備え、交換のタイミングが明確であることが求められます。

触発性

触発性は「気づき、意識、災害に対するイメージを生むこと。」とされています。

フェーズフリーの商品やサービスを通じて気づきや災害に対するイメージ、安全・安心に対する意識が生まれ、さらに新しい商品やサービス開発のきっかけを与えてくれるという性質です。

普及性

普及性は「参加でき、広めたりできること。」とされています。

普及性は、災害と直接的に関連するわけではありませんが、災害を解決するというフェーズフリーの目的のために重要な性質です。誰かにシェアしたくなる新しさ、おもしろさ、広まりやすさなどの普及性の高さがあれば、フェーズフリーの商品・サービスが多くの人にとってより身近なものになります。

フェーズフリーな商品やサービスの具体例

最近では、フェーズフリーの考え方を取り入れた商品やサービスも増えてきました。フェーズフリーな商品やサービスの具体例を見ていきましょう。

●森永とうふ(※1)
6層構造の紙パックで品質劣化を防ぐことにより、常温で製造後216日の長期保存を可能にした豆腐です。挽き搾り製法でおいしさにもこだわっている上、災害時の食事で不足しがちな、たんぱく質も豊富に含みます。

●水も運べる撥水バッグ(※2)
雨天時の利用はもちろん、撥水機能を活かして、災害時などにはバケツ代わりにして水を運べるバッグです。使わない時には折りたたんでおけるので、収納場所もとりません。

●日常で使える防災スリッパ(※3)
丈夫なインソールとゴムバンドによる固定で、ガラス片などから足を守ってくれるスリッパです。包み込むようなフィット感、落ち着いた色とデザイン、繰り返し洗って使える耐久性に優れた素材など、日常的にも快適に使用できる工夫がされています。

●紙コップ メジャーメント(※4)
「ml/cc」「合」「カップ」の目盛が付いたデザイン紙コップです。鮮やかな配色で日常のシーンでも映えるデザインながら、災害時やキャンプ・バーベキューなどでは、軽量カップとして活用できます。粉ミルクや米の計量にも便利です。

●クロスゼロ for ビジネス(※5)
チャット機能や掲示板機能で、社員間のコミュニケーション手段として活用できるだけでなく、「防災トリセツ」などで日常的に防災を学べる総合防災アプリです。災害時には、安否確認の自動配信やリスク共有、情報伝達にも活用できます。

これらの商品・サービスの他にも、フェーズフリーのコンセプトを取り入れた、防災公園や防災拠点型複合庁舎などの施設も整備されるようになってきています。

企業でできるフェーズフリーの取り組み

企業でできるフェーズフリーの取り組みには、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、「ローリングストック法の活用」と「フェーズフリーの概念を活かしたオフィス家具・備品選び」について、ご紹介します。

ローリングストック法の活用

ローリングストック法とは、普段から食品や飲料水、消耗品などを少し多めに購入してストックしておき、古いものから消費し、消費した分だけ新しいものを買い足すという備蓄方法です。このローリングストック法を活用することも、企業でできるフェーズフリーの取り組みの1つです。

ローリングストック法で非常食を備えておけば、災害時にも普段に近い食事を摂ることができるため、安心感につながり、栄養の偏りも防げます。

防災備蓄品を備えておくことは企業においても重要ですが、長期間保存のきく非常食などは賞味期限の管理が難しく、使い切れずに廃棄してしまうことも少なくないでしょう。ローリングストック法なら、普段から賞味期限を確認しながら消費していけるので、備蓄品の鮮度も保たれ、日常の延長として効率的に防災備蓄に取り組めます。

オフィス家具・備品選びもフェーズフリーを意識する

オフィス家具・備品選びの際にも、災害時に社内にとどまらなければならない状況などを想定し、フェーズフリーを意識して選ぶのがよいでしょう。

たとえば、移動可能なホワイトボード機能付きパネルや、好みの幅に変えられるスクリーンは、災害時、プライバシー保護のための仕切りとして活躍します。衛生面では、高濃度アルコール手指消毒剤や臭いが漏れにくいゴミ箱も役立ちます。

組み合わせ自由な1人用のロビーチェアーなら、単体でも組み合わせても使えるので、状況にあわせて形を変えられて便利です。また、資料などの保管に強化中芯を使用した強化段ボールを使っておけば、いざという時はベッドとしても活用できます。

災害時の情報伝達には、上向きの状態や濡れた紙でもしっかり書ける油性ボールペン、ガラスや壁面に貼り付けられる静電気貼付式のホワイドボードシートなどがおすすめです。

いざという時に慌てないためにも、ここで紹介したような、災害時にも活用できる家具や備品をオフィスにそろえておきましょう。

まとめ

今回は、フェーズフリーについて具体例を交えながら解説するとともに、ローリングストック法や備品選びなど、企業でできる取り組みについてもご紹介しました。フェーズフリーの商品やサービス、考え方を取り入れて、ぜひ身近なところから、社内の防災備蓄を見直してみてください。

企業にとって防災備蓄品を適切に管理し備えておくことは、従業員の命と安全を守るために非常に重要です。しかし、消費期限・使用期限の把握など備蓄品の管理が難しかったり、担当者の負担が大きくなってしまったりして、お悩みのケースもあるのではないでしょうか。

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