温暖化による農作物の不作や海水温の上昇による漁獲量の変化など、私たちはさまざまな場面で気候変動による影響を受けています。気候変動は個人の生活だけでなく、企業経営にも影響を与える現象です。
本記事では、ゲリラ豪雨や線状降水帯の発生などで頻繁に起こるようになった水害に焦点を絞り、水害の種類や想定される被害について解説します。水害の被害を低減する対策についても、併せて紹介します。
水害と言えば、台風や大雨によるものを想定する方も多いでしょう。大量の水だけでなく、水によって引き起こされる災害をまとめて水害といいます。
水害にはさまざまな種類があります。まずは、水害にはどのようなものがあるのかを確認しておきましょう。
洪水とは、台風や大雨などで降水量が多いときに、通常時よりも河川の水量が多くなった状態のことです。川幅の大きい河川では、普段は河原になっている部分にまで水があふれることがあるでしょう。
洪水は、降雨だけでなく、気温が急激に高くなり、雪が一気に解けたときにも発生することがあります。そのため、場所によっては雪解けの情報にも注意する必要があるでしょう。
河川が増水して、川の水があふれることを氾濫(はんらん)といい、状態によって2種類に分けられます。
氾濫のうち、河川の水が増えて、堤防から水があふれた状態や、堤防が決壊して水が外に流出することを「外水氾濫」といいます。
外水氾濫で特に注意が必要なのは、高い堤防から低い場所に水が流出するときです。水の勢いが強いため、河川の付近の家屋は、半壊や全壊などの大きな被害が発生する恐れがあります。
河川から水があふれるのではなく、降水量が増大した際に、排水が追いつかずに水があふれてしまった状態が「内水氾濫」です。河川付近だけではなく、市街地や住宅街などでも生じます。
内水氾濫の中には、河川の水が逆流して市街地などの排水路からあふれ出す、湛水(たんすい)型内水氾濫もあります。内水氾濫が発生しやすい場所は、低地や雨水が浸透しにくいアスファルトやコンクリートなどで地表が覆われた市街地などです。
波浪(はろう)とは、海の波の状態を表す言葉です。強風によって海面に発生する表面波のことを波浪といいます。後述する高潮の発生時に波浪が生じると、より危険度が増すため注意が必要です。
波浪警報は、高波によって重大な災害が生じる恐れがある場合に気象庁から発表されます。危険度に応じて「波浪特別警報」「波浪警報」「波浪注意報」と分類されています。
高潮とは、台風や低気圧によって発生した強風や気圧の変化によって、海面の水位が通常より高くなっている状態です。河川が海と合流する河口付近で水があふれるなど、通常とは異なった水の流れが発生します。
河口付近で海水があふれてしまうと、海水が陸地に流れ込み、塩害が生じる原因にもなります。河口付近で農業を営む方には死活問題です。
高潮時は、増水した水に飲み込まれないよう、河口付近や海岸部には近づかないようにしましょう。
地震の発生や火山活動などによって海底の地形が変動することで、急激に海面の水位が上がり、大きな波となって陸に押し寄せる現象が津波です。次々に発生する波に押され、陸に到達するまでに高い波となっていきます。
2011年の東日本大震災や2024年に能登半島地震で発生した津波が記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。津波の到達時間は場所によって異なるため、気象庁が発する津波警報に注意が必要です。
大津波警報と津波警報、津波注意報の3種があります。
津波は日本の地震や火山活動だけに注意すればいい、というものでもありません。海外で起こった地震が影響して日本に津波が押し寄せることもあります。
水害と一口に言っても、台風や大雨などの多量の降水によって発生するものと、強風や地震など、水量以外の原因によって生じるものがあります。
国内の水害リスクなどについてまとめた「河川事業概要2023」(国土交通省)には、河川の増水による堤防の決壊や橋の流失、都市部の内水氾濫、土壌の塩害などだけでなく、土砂災害も水害リスクとして紹介されています(※1)。山間部や崖地などでは土石流や地すべり、がけ崩れなどの土砂災害が発生しているのです。
同資料には、過去10年間に約98%の市町村で水害土砂災害が発生したと記載されています。水害土砂災害が多くなった原因の1つとして示されているのは、時間雨量が50mmを超える短時間強雨の発生件数が、約40年前の約1.5倍となったことです。
今後、さらに大雨や短時間強雨の発生頻度が増え、降水量などが増大すると予測されており、大規模な水災害が発生するリスクが高いと示されています。日本において、水害に備えることは必須だといえるでしょう。
さまざまな種類の水害があり、その発生リスクは今後も増大するという予測のため、備えが必要です。水害で起こる被害を把握しておきましょう。
床上浸水は、床の上まで水で浸ってしまった状態のことです。床材だけでなく、床と接する壁面にも影響が出る可能性があります。
床下浸水は、床には到達しない程度に水が上がってきた状態です。床下浸水であっても、自動車やバイクなどが使用できなくなる可能性があり、洗浄や消毒を行う必要があります。
洪水や津波などの水害により、家屋が流されてしまったり、流されてきたものにぶつかって壊れたりすることがあります。
家屋が倒壊したり、損壊してしまった場合には、立て替えや住み替えが必要となるでしょう。住宅ローンを組んだ家屋の場合には、支払いを続けつつ、次の住まいの支払いもしなくてはならないため、場合によっては二重ローン状態となってしまうケースもあります。
水害では人的被害も多く発生しています。被害の例として、多量の水に体が飲み込まれて溺れてしまったり、土砂災害などにより倒壊した住宅の下敷きとなったりなどがあります。
また、多量の水でなくても、水に足が取られ歩行が困難となり、側溝に転落して溺死するケースもあります。
水害により電気設備が水没すると、漏電ブレーカーが落ちて停電してしまいます。変電施設の漏電被害により、大きなエリアで停電するケースもあります。
下水道があふれてしまった場合、上水を流すことができなくなるため、水道設備が使えなくなります。水も電気も使えない状態では、調理や入浴、排せつなど日常生活を送ることが非常に困難となるでしょう。
下水道があふれて汚水や汚泥が広がってしまうと、悪臭が生じるだけでなく、雑菌や害虫が発生し、感染症が流行する恐れがあります。
水道や電気が使えない状態では、さまざまな場所で衛生的な環境が保てません。感染症にかかりやすい状況になるほか、食中毒などにも気をつける必要があるでしょう。
水害で起こる被害を確認できたら、被害を低減するための対策を考えましょう。平時から水害に備えておくことができれば、被害を低減できます。
ハザードマップとは、自然災害のリスクをわかりやすく示した地図です。
国土交通省では、水害の種類ごとに想定されるリスクを示す「重ねるハザードマップ」を提供しています(※2)。
ハザードマップによって、高潮や津波などの海に近い場所で発生する水害や河川付近で起こる洪水、都市部でも発生する内水(内水氾濫)、山間部で生じる土砂災害など、さまざまな水害リスクの確認が可能です。
自宅や会社周辺の災害リスクや避難先を確認し、適切な対策を練ることで、水害被害を低減できます。
災害用の備蓄品を用意することも水害被害の低減に欠かせない対策です。ハザードマップなどを確認し、想定されるリスクに備えて何日分の備蓄品が必要なのかを検討しましょう。
エリアによっては、水害の発生により陸の孤島となってしまう可能性が高い場所もあります。救助が遅れることも想定し、多めに備蓄品を用意するなどの工夫が必要です。
浸水や高潮の危険が想定される場合には、土のうを用意し、床上浸水や床下浸水を防ぎましょう。
降水量が増えたときに準備するのでは遅いため、平時に土のう袋を用意し、砂を詰めて保管しておくという作業が必要です。
土のうは重量があり、運搬するのには非常に労力がかかります。非常時に水をかけることでふくらむ土のうなどの商品もありますので、事前に調べておきましょう。
水害が発生した場合、営業車やトラックなどが水没して故障するリスクがあります。水圧によって車両のドアが開けられず、脱出ができない事態を想定し、車両からの脱出対策を講じておきましょう。
車両には、強化ガラスなどの耐久性がある素材が使用されています。窓を叩いて割ろうとしても、簡単に脱出することはできません。車内に脱出用のハンマーを備えておき、緊急時に窓を破って脱出ができるようにしておきましょう。
水害で想定される甚大な被害を確認し、備えなくてはと思った方も多いことでしょう。水害の種類を把握し、備えておくことで、水害による被害を低減できます。
防災の備蓄品は、使用期限がつきものです。定期的に入れ替えが必要なため、なかなか手が付けられないという方もいるのではないでしょうか。
手始めに、企業・団体の防災備蓄品の管理・運用をDX化できる「Musute」を活用してはいかがでしょうか。
管理・運用だけでなく、廃棄予定の備蓄品を必要とする人々に寄付という形で循環させる仕組みも提供しています。
(※1)河川事業概要2023
(※2)ハザードマップポータルサイト