災害時には自治体などの行政が動くだけでなく、企業が被災地支援に携わる様子を報道などで頻繁に目にするようになりました。行政の支援に加え、企業が災害支援をすることで、被災地へ手厚い支援が行われています。
本記事では、企業が災害支援に取り組む重要性と、実際の災害支援の事例を紹介しながら、支援のあり方や方法について解説します。
企業は、営利事業を行うことによって、会社を成長させていくだけでなく、社会や地域も豊かにしていくという重要な役割を担っています。企業が組織活動を行うにあたって、担うべき社会的責任は「CSR(corporate social responsibility)」と呼びます。
CSR活動といえば、地域の子どもや高齢者、自治会などとともに行うボランティアや環境保全の取り組みなどをイメージしがちですが、災害支援もCSR活動の一つです。災害の発生に備え、平時から災害協定などを自治体と結んでいる企業もあります。
近年は、気候変動の影響などもあり、大規模災害が頻発しています。地域の自治体と災害協定を締結することは、地域を災害から守ったり、復興を支援したりすることだけが目的ではありません。企業が、事業を安定的に行うための経営環境を守る取り組みでもあるのです。
災害支援への取り組みは、CSR活動であると同時に、企業イメージを向上させることにもつながります。地域住民や顧客の企業に対する愛着や応援の気持ちが高まれば、売り上げアップや従業員の採用がしやすくなるなどのメリットも得られるでしょう。
企業が取り組むべき災害支援の方法を4つ紹介します。
災害が発生すると、道路の異常や商品を保管している倉庫のトラブルなどの影響で、さまざまな物資が不足します。生活するのに必要な最低限の衣食住さえ、まかなえない状況に陥ってしまうことも珍しくありません。
物資の提供は、被災者の生活を支えるために、必要な災害支援です。たとえば、避難先で提供する非常食や飲料水、毛布などの物資は、自治体にも備えがあるものの、災害規模によっては十分とはといえない場合もあるでしょう。
日頃から、企業内に十分な量の防災用品などをストックしておけば、緊急時に自治体に支援物資として届けることができます。被災後の暮らしに関わる物資だけでなく、復興に役立つ、スコップやヘルメットなどの道具類の備えもあるといいでしょう。
被災地と企業が離れた場所にあり、現地に赴いて活動するのが難しい場合は、金銭的な面の災害支援を検討しましょう。
企業の利益の中から義援金を捻出するほか、従業員からも義援金を募ったり、店頭に募金箱を設けて、来店客からの寄付を募ったりする方法もあります。募金箱に集まったお金を正確に数え、支援団体に送金しましょう。
被災地に物資がたくさん集まったとしても、物資を分別したり、配布したりする人手が不足することがあります。ボランティアを要請する被災地があれば、従業員を派遣することも、企業ができる災害支援方法の一つです。
被災地では、現地に暮らす方の生活を支える人だけでなく、まちの復興に関わる人手も必要となります。生活がままならない被災者が、復興の担い手になるにはかなりのパワーを要するからです。
ボランティアの派遣は喜ばれる災害支援ではありますが、注意するべきこともあります。例えば、スタッフが現地に向かう交通手段や滞在先が、被災地の方にとって負担となる可能性があります。災害支援が逆効果にならないよう注意が必要です。
企業が自治体と結ぶ災害協定は、災害発生時に人的・物的支援をすることを取り決めたもので、正式名称は「災害時応援協定」です。
災害協定の内容は、企業の事業に付随するものがほとんどです。建設業者であれば、がれきの撤去に必要な重機と作業員を提供したり、タクシー事業者であれば、災害時の緊急輸送に協力したり、飲料メーカーであれば、緊急時に自販機内の飲料を取り出せるようにしたりと、さまざまなものがあります。
多くの企業と災害協定を結ぶことができれば、多角的な災害支援が可能となるため、自治体はさまざまな業界の企業と協定を結んでいます。
国は、災害対策基本法に基づき、公共的な機関や公益的事業を営む法人を「指定公共機関(※1)」に指定しています。指定された団体・企業は、2023年6月23日現在で106機関あり、災害時に公共機関のように災害支援を行うことが可能です。
ここでは、指定公共機関の取り組みを含め、さらに進んだ災害支援に取り組む企業の事例を紹介します。
日本航空株式会社を擁するJALグループ(※2)は、政府や自治体と災害協定を締結しています。
重要な交通インフラの一つとして、災害時には臨時便を用意するほか、災害復旧支援に豊富な経験を持つNGOやNPOなどとも連携し、被災地への救援物資の輸送や救援スタッフの輸送に協力する体制も築いています。
企業と社会福祉協議会、NPO、共同募金会が協働する「災害ボランティア活動支援プロジェクト会議」にも参加し、災害ボランティアの環境整備を行うなど、災害支援に力を入れている災害支援事例です。
全国で大型ショッピングモールを展開する小売事業者のイオン株式会社(※3)は「指定公共機関」として、日頃からさまざまな災害支援に取り組んでいます。
店舗を一時避難場所として利用するため、建物の耐震性能を強化しているほか、火災発生時の被害を防ぐために不燃建材を使用するなど、目には見えないさまざまな工夫を施した災害支援事例です。
自家発電施設や受水槽に非常用バルブを取り付けて飲料水を確保できるようにしたり、避難者が店舗からあふれることも想定し、屋外用に大型テント「バルーンシェルター」なども用意しています。2012年から施設の安全・安心対策の強化を開始し、全国各地の店舗に拡大中です。
災害時には、被災地域に住む方の安否確認や、被災地から状況を知らせるための連絡手段が必要となります。日頃は便利に利用できている携帯電話も、基地局周辺が停電してしまうと、通信を利用できなくなるため、注意が必要です。
指定公共機関であるコンビニエンスストアチェーン「セブン‐イレブン」を運営する株式会社セブン&アイ・ホールディングス(※4)は、災害時の安否確認や帰宅困難者の連絡手段として、NTT東日本と協力し、東京23区の「セブン-イレブン」の一部店舗に無料で利用可能な非常用電話機(災害用特設公衆電話)の設置を進めています。
ほかにも、災害時に「セブン-イレブン」店舗を営業し続け、地域の支援をするため、緊急物資配送用の車両に使う燃料を備蓄する基地を、国内の小売業で初めて埼玉県に設置しました。災害が発生した場合、最大10日もの間、避難所や首都圏の店舗への緊急物資や商品の配送が可能です。
災害時には、自分のいる場所の正確な災害情報を把握することが重要です。
ポータルサイト「Yahoo! JAPAN」の運営などを行うLINEヤフー株式会社(※5)は、災害関連の情報提供に力を入れています。
スマートフォンなどに「Yahoo! JAPAN」のアプリをインストールしている方であれば、緊急時に通知が届いたり、災害の状況を確認したりと、すでに活用していることでしょう。
24時間体制で災害関連の情報提供を行っている同社は、緊急時の情報提供だけでなく、非常時に備えるための「防災手帳」というサービスも提供しています。日常的に利用するポータルサイトが、防災行動につながるための情報発信も行っているのです。
被災地の復興支援イベントを、現地の企業と協働して開催する企業もあります。前述のヤフー株式会社は、宮城県仙台市に本社のある河北新報社とともに、被災地を自転車で走る「ツール・ド・東北」(※6)を開催してきました。
同イベントは、全国から集まったサイクリストと地域住民の交流が魅力のイベントです。サイクリストからの人気が高まり、多くの参加者を迎え、2023年までに10回開催されました。2024年大会からは、河北新報社と自治体が結成した団体による運営となり、災害支援が地元の活性化につながった事例です。
たとえ、企業が被災地と遠く離れた場所にあっても、復興支援イベントを開くことはできます。被災地の農水産業を応援するため、産地から商品を取り寄せてイベントに出展したり、従業員や顧客へ販売したりと、長く支援を続けている企業もあります。
企業は、自社の利益を追求する活動だけでなく、社会的責任を果たすための取り組みも求められています。その取り組みの一つとして、重要とされているのが災害支援です。
企業の災害支援事例を参考にしながら、物資の提供や義援金の寄付など、自社でできることから取り組みましょう。
地域貢献の一環として、災害支援に取り組むにも、何から始めたらいいのかわからないという方には、防災備蓄品の管理・運用DXツール「Musute」をおすすめします。
「Musute」なら、手間のかかる防災備蓄品の管理を簡単に行えるだけでなく、防災備蓄品の入れ替え時に、物資を必要としている団体に寄付するなど、CSR活動も同時に行うことが可能です。
災害対策の手始めに、ぜひ「Musute」の利用を検討してみてはいかがでしょうか。