中小企業は、大企業と比べて資金力や設備、人員などに余裕がない場合が多く、災害時の被害を受けやすい傾向にあります。そのため、企業が緊急事態時に損害を最小限に抑え、事業継続および早期復旧するためのBCP対策(事業継続計画)を策定しておく必要があります。

中小企業におけるBCP対策の重要性が高まっているものの、その取り組みは遅れているのが現状です。

本記事では、中小企業がBCP対策を策定するメリットと策定手順、そのポイントについて解説します。BCP策定の重要性を理解し、企業の持続可能性を高める第一歩を踏み出しましょう。

BCP対策とは?

BCP対策とは、事業継続計画のことです。英語で「Business Continuity Plan」と表記することから、その頭文字を取り、BCP対策とも呼ばれています。

BCP対策は、企業が大規模災害などの緊急事態に遭遇したときに被害を最小限に抑え、事業を中断させないようにするための計画です。事業を中断せざるを得ない場合における復旧計画もBCP対策に含まれます。

BCP対策緊急事態には自然災害だけでなく、私たちが近年体験した新型コロナウイルス感染症のような大規模な感染症やテロの発生、システム障害なども含みます。

防災計画との違い

BCP対策と防災計画は混同されがちな言葉ではありますが、両者には大きな違いがあります。

BCP対策の目的は、従業員の安全確保と事業の継続・復旧です。一方、防災計画の目的は、避難経路の確保や防災備蓄といった人命の確保と被害を最小限に抑えることです。ここに事業の視点は含まれていません。目的が異なることは、BCP対策と防災計画の大きな違いといえるでしょう。

防災計画は自然災害を想定して作成するのに対し、BCPは自然災害によるリスクだけでなく、パンデミックやテロなど、事業の存続が危ぶまれるすべてのリスクを想定して作成します。BCPは、防災計画に比べ、幅広いリスクを対象としているのも特徴です。

とはいえ、BCP対策も防災計画も災害に備えるために必要不可欠な対策であり、企業は両方を適切に策定することが求められます。

中小企業におけるBCP対策の現状

帝国データバンクが2023年5月に全国2万7,930社を対象にした「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2023年)」(有効回答企業数は1万1,420社)によると、BCP策定率は18.4%で、「策定意向あり」と回答する企業は48.6%と、3年連続で50%を下回る結果となりました(※1)。

BCP策定率を規模別にみると、大企業が35.5%(2022年調査より1.8ポイント増)、中小企業が15.3%(同0.6ポイント増)です。大企業に比べ、中小企業のBCP対策率の伸び率はやや低調といえます。

中小企業にBCPを策定していない理由を尋ねたところ、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」が41.4%、次いで「策定する人材を確保できない」が30.2%と続いています。リソース不足によって策定できないと考える企業が多い中、「必要性を感じない」という回答も21.6%あります。これは大企業の14.4%と比較して7.2ポイントも高い結果となっています。

これらの現状から、中小企業はBCP策定が遅れがちであるといえるでしょう。

中小企業におけるBCP対策の重要性とメリット

近年、大規模な自然災害や感染症の流行などが相次いで起こり、今後も不測の事態が発生する恐れがあります。大企業に比べ、BCP策定が進んでいない中小企業は、早急に取り組むべきといえます。

ここでは、中小企業におけるBCP策定の重要性とメリットについて見ていきましょう。

取引先に対する信頼につながるため

取引先の信頼につながることは、中小企業がBCP対策を策定するメリットのひとつです。

例えば、災害が発生した場合、商品の製造が停止してしまう恐れがあります。BCP対策を実施している企業であれば、迅速な復旧作業が行えるでしょう。一方、BCP対策を策定していない企業は、商品の供給を止めることとなり、取引先の信頼を失う可能性があります。

BCP対策をしていることは、取引先にとっての安心要素となるのです。

緊急事態発生時のビジネスの機会損失抑制

BCP策定をしている企業であれば、緊急事態発生時におけるビジネスの損失機会を抑制することが可能です。

BCP対策は、さまざまな緊急事態を想定して策定しています。企業が初めて直面する緊急事態であっても、復旧への手順が明確化されているため、事業を迅速に再開できます。不測の事態にもビジネスの機会損失を最小限に抑えられるでしょう。

経営戦略や事業内容を客観的に見直す機会になる

BCPを策定するには、経営戦略や事業内容を見直す機会にもなります。

企業にあった適切なBCP対策を策定するためには、自社の現状を把握しなければなりません。事業内容や業務フローなどを見直すことによって、業務の無駄に気づき、業務効率化を図れる可能性があります。組織のあり方を見直すきっかけにもなり、経営戦略のアップデートにも役立つでしょう。

中小企業のBCP対策を策定する手順

人材やリソースが限られる中小企業がBCPを策定する際は、どのようなことに気を付けるといいでしょうか。ここでは中小企業におけるBCP策定の手順を具体的に紹介します。

リスクをピックアップする

まずは、BCP対策の対象となる緊急事態に遭遇した場合、自社に起こり得るリスクをピックアップしていきましょう。BCP対策の対象は、自然災害をはじめ、サイバー攻撃やパンデミックなどです。

さまざまな緊急事態をピックアップできたら、それらのリスクがおよぼす影響について、重大さや損害額などを検討し、優先順位を付けていきましょう。

社会的に大きな影響を及ぼすリスクであっても、必ずしも自社に影響があるとは限りません。企業の事業内容や経営方針などを振り返りつつ、リスク対策の優先順位を考えていきましょう。

中核事業と復旧目標を設定する

次に、優先的に事業復旧すべき中核事業を特定します。中核事業とは、事業存続にかかわる最も重要性の高い事業のことです。中小企業では、経営に与える影響が大きい製品やサービスなどが該当します。

中核事業を特定したら、その事業に対し、「どこまで復旧させるか」という復旧目標を設定しましょう。中核事業の復旧を最優先させることで、取引先へのダメージを少なくし、従業員の雇用を守ることができます。

復旧時間の目標設定

中核事業の復旧目標を設定したら、復旧時間の目標も設定しましょう。

中核事業の復旧が遅れれば遅れるほど、事業機会を損失してしまいます。事業継続に欠かせない重要な取引先との契約解除にもつながる恐れもあるでしょう。中小企業の場合、会社の存続自体が危ぶまれる状態にもなりかねません。

復旧時間の目標設定をするには、中核事業の実施に必要なリソースや業務フローの明確化が必要です。いつまでに復旧しないといけないのか、復旧時間の目標を設定することで、中核事業の早期復旧と事業の継続が目指せます。

BCP対策の内容をマニュアル化

BCP対策の内容を経営陣だけが知っていても、実行することはできません。策定しただけでは、宝の持ち腐れです。

BCP対策の内容はマニュアル化し、関係各所に行き渡らせることが必要です。情報を共有するとともに、その目的についても理解してもらいましょう。

災害発生などの緊急時は、現場が混乱し、正常な判断ができない可能性が高い状態です。その中で、BCP対策のマニュアルに応じた行動が取れれば、事業継続や早期復旧につながる適切な行動を取れるようになります。

中小企業のBCP対策を策定するときのポイント

BCPを策定する手順を確認したところで、中小企業がBCP策定に取り組むときのポイントを4つ紹介します。

BCP対策における全社内の意識統一

策定したBCP対策は、内容の共有だけでなく、全社内で意識統一をしておくことが重要です。

マニュアルを共有していたとしても、その内容を従業員が把握していないのであれば、計画倒れとなりかねません。どの事業が自社の中核事業なのか、どのような災害リスクがあるのか、社内で意識統一しておくことで、いざという時に従業員一人ひとりが適切な行動を取れるようになります。

従業員にBCPの教育・訓練を実施する

BCP対策の重要性を周知するためには、従業員への教育や訓練を実施しましょう。

予期せぬ緊急事態下でも、従業員が適切に動けてこそ、BCPの効果が発揮されます。そのためには、BCP対策を社内に定着させることが重要です。

BCP対策についての研修会を実施したり、防災訓練を行ったりすることで、従業員の知識が深まり、いざというときに慌てずに対処ができるようになります。

運用を定期的に見直し改善する

BCPは、一度策定したら完了ではありません。事業内容や社会状況の変化などに応じて、定期的に見直し、改善する必要があります。

BCP対策の策定は、手間とコストがかかる点が課題です。定期的な見直し改善を怠っていては、対策の内容と現状にズレが生じ、緊急時にBCP対策が機能しない恐れがあります。

見直しのタイミングは、防災訓練後がおすすめです。防災訓練でBCP対策が適切であるかを確認し、修正や改善を行います。見直したBCP対策は、マニュアルのアップデートや社員への周知も忘れずに行いましょう。

中小企業のBCP対策には補助金や助成金が支給される場合も

国や地方自治体は、中小企業のBCP対策促進のために、さまざまな策定支援制度を設けています。

そのひとつに、事業継続力強化計画認定制度(※2)があります。事業継続力強化計画認定制度とは、中小企業が策定した防災および減災の事前対策に関する計画を、経済産業大臣が「事業継続力強化計画」として認定する制度です。

これは中小企業のための簡易なBCPと位置づけられ、認定を受けた中小企業はさまざまな優遇措置を受けられます。具体的には、税制優遇や金融支援、補助金事業としての加点などです。また、認定企業として認められると認定ロゴマークを活用した広報活動が可能となり、リスク管理に取り組んでいることをアピールできます。

中小企業のBCP対策における補助金や助成金の制度は、毎年実施されるとは限らず、予告なく修正されることもあります。申請をする場合は、最新の情報を確認するようにしましょう。

まとめ

BCP対策の策定は、緊急時の備えとしてすべての企業に置いて重要な取り組みです。しかし、策定にかかる手間は多く、定期的な見直しや改善など、リソースに余裕のない中小企業が自社だけで対応することは難しいでしょう。

しかし、災害はいつどこで起こるか予測不能です。BCP対策の策定を後回しにするのではなく、外部サービスなどを活用し、早急に対応する必要があります。

BCP対策の手間を軽減するなら、「Musute」がおすすめです。

「Musute」は、防災備蓄品の管理・運用DXツールです。手間のかかる防災備蓄品の管理が、簡単に行えるだけでなく、寄付やリサイクル、購入・入替といった関連するプロセスの自動化も支援しています。

中小企業のBCP対策にお悩みなら、ぜひ「Musute」の利用をご検討ください。