BCP対策は、緊急事態発生時において、被害を最小限に抑え、事業を継続するための対策をまとめた事業継続計画のことです。
近年、自然災害や感染症流行など、企業に大きな影響を与える不測の事象が発生していることもあり、BCP対策の策定はすべての企業において急務とされています。
BCP対策を策定するにあたり、「実際にはどのようなBCP対策があるのか」「BCP対策の実例が気になる」など、他社の事例が気になる方も多いでしょう。
本記事では、BCPの基本や日本企業における実施割合、そしてさまざまな業種のBCP策定事例について紹介します。
BCPとは、「Business Continuity Plan」の略称であり、事業継続計画とも呼ばれます。企業が緊急事態に遭遇した際、被る被害を最小限に抑え、事業をできるだけ中断させない、あるいは最短で事業を復旧させるために策定する計画です。
BCPにおける緊急事態とは、自然災害だけではありません。新型コロナウイルス感染症のようなパンデミックや大規模なシステム障害、テロ攻撃なども含まれます。
自社にはどのようなリスクがあるのかを把握し、そのリスクを対象として策定するのがBCP対策です。
BCMは「Business Continuity Management(ビジネス・コンティニュイティ・マネジメント)」の略称です。事業を継続するために必要な資源や運用方法、組織を脅かすリスクを把握し、そのうえで事業を維持していくための体制を整えるプロセスを指します。別名、事業継続マネジメントとも呼ばれています。
BCMは、事業継続のための包括的なマネジメントプロセス全般を指すのに対し、BCPは緊急事態発生時における事業継続や早期復旧を実現するための具体的な計画のことです。つまり、BCPはBCMの取り組みのひとつであると考えてよいでしょう。
内閣府が行った「令和5年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」によると、BCP対策を「策定済みである」と回答した大企業は76.4%、中堅企業は45.5%でした。これに「策定中である」を加えると、大企業は85.6%、中小企業は57.6%となります。
国が掲げていた令和2年(2020年)までのBCP策定率の目標値は、大企業でほぼ100%、中堅企業で50%でした。令和5年度の実態調査の結果をみると、BCPを「策定済みである」と回答する企業は年々増加しているものの、国が掲げる目標は大きく下回ってていることがわかります。
引用元:内閣府「令和5年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」(※1)
同じく、内閣府がまとめた「令和5年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」によると、業種ごとのBCP策定率は、金融・保険業が 76.6%と最も高く、次いで運輸業・郵便業66.2%、建設業63.4%と続きます。
令和3年度調査と比較すると、運輸業・郵便業のBCP策定率は17.2%、建設業は10.6%と大きく上昇しています。世界的な緊急事態ともいえるコロナ禍や国内外各地での地震を受け、両業種の事業継続が災害からの復旧に大きな影響を与えるという意識が強まり、BCP策定が進んだという分析がされています。
引用元:内閣府「令和5年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」(※1)
政府が掲げる企業のBCP策定率目標に対し、達成できていないのが現状です。その理由には、BCP対策に取り組めない、あるいは取り組みづらい理由があります。
企業のBCP対策実行に対する課題として、策定に必要なスキル・ノウハウがないことや、策定する人材を確保できないことなどが挙げられます。
BCP対策は、策定して終わりではありません。マニュアルを作成して全従業員に周知したり、実行を想定した訓練を行ったりなど、多くの手間がかかることも企業のBCP対策実行に対する課題のひとつといえるでしょう。
BCP対策の策定は、事業の継続に直結する最重要課題です。これらの課題を解決し、BCP対策の実施に取り組む必要があります。
BCP対策と一口にいっても、その内容は企業の業種によって異なります。
BCPを策定する場合は、自社と同じ業種のBCP対策事例を参考にするといいでしょう。ここでは、以下7つの業種別BCP対策事例を紹介します。
・製造業
・小売業
・建設業
・運輸業
・金融・保険業
・ITサービス業
・介護業
製造業は、緊急時に工場が甚大な被害を受け、製造業務が停止してしまうことが最大のリスクです。操業停止となると、売上が立たないだけでなく、関係企業にダメージを与え、多くの従業員の仕事がなくなる事態にも陥りかねません。
以下は、オートバイを中心とした輸送用機器を製造するメーカー「ヤマハ発動機株式会社」のBCP対策事例です。
・建物・設備などの耐震対策、津波への対応
引用元:リスクマネジメント|ヤマハ発動機株式会社(※2)
・水・食糧などの備蓄
・緊急通信手段の整備
・近隣グループ会社を含む全社一斉の避難訓練(一部の部門は夜間訓練を含む)の定期実施
・安否確認訓練の定期実施
・事業所別の初動対応訓練の実施
従業員の生命・安全を最優先としつつ、事業継続を確実にする目的で、BCP対策が策定されています。
製造業では、緊急事態が生じても稼働を続けられる状態にすること、仮に停止してしまった場合でも、最短で復旧できる対策を練っておくことに重点をおいたBCP対策を策定するとよいでしょう。
急激な変化が生じやすい環境にある小売業は、日々の対応に忙しく、緊急事態に備えるBCP対策は後回しにされがちです。しかし、スーパーやコンビニといった小売業は、災害時において住民のインフラともなり得るため、BCP対策の策定は非常に重要です。
以下は、小売業界の大手であるイオングループのBCP対策事例です。
・情報インフラの整備
引用元:イオンの防災|イオングループ(※3)
・施設における安全・安心対策の強化
・商品・物流におけるサプライチェーンの強化
・事業継続能力向上に向けた訓練計画の立案と実行
・外部連携の強化とシステム化
サプライチェーンとの協力関係を事前に強化しておくことで、災害時に最も効率的な支援が可能となります。小売業は、情報インフラの整備や施設の安全対策など、多くの視点を入れたBCP対策を策定する必要があります。
建設業は、災害時に倒壊したものの撤去や住宅の建設など、災害時のインフラ復旧を担う業種です。BCP対策の策定は、自社だけでなく、地域復興のためにも不可欠であるといえるでしょう。
以下は、「清水建設株式会社」のBCP対策事例です。
・従業員とその家族の安全確保を最優先する
引用元:リスクマネジメント|清水建設株式会社(※4)
・自社施設及び施工中作業所の保全を図る
・得意先施設(施工物件)の復旧を支援する
・社会・地域の生活基盤の確保に貢献する
・上記活動が自律的に行われる仕組みを構築する
従業員やその家族の安全を確保したうえで、被災地の復旧・復興、事業を早期再開するための支援などを行うことに重点がおかれています。
建設業は、他の業種に比べ、労働災害が発生しやすいといわれています。災害時だけでなく、平常時から事故発生リスクに備える必要があり、従業員の安全教育は徹底する必要があるでしょう。
さまざまな業種に物資を運ぶ運輸業は、社会的インフラを支える業界です。災害後の復旧にも重要な役割を果たすため、安定したサービスを継続できるBCP対策を策定する必要があります。
以下は、「ヤマトホールディングス株式会社」のBCP対策事例です。
・人命を最優先する
引用元:ガバナンス・コンプライアンス|ヤマトホールディングス株式会社(※5)
・グループ各社の事業の早期復旧を目指す
・社会的インフラとして地域社会からの期待に応える
上記に加え、2020年からは安否・被災状況確認システムを導入し、初動の安否確認や発災時の被災状況の報告訓練を定期的に実施しています。
運輸業におけるBCP対策は、自社の情報収集だけでは限界があり、各地の状況に関する情報を同業他社と共有できるかどうかが重要となります。国土交通省が運輸業におけるBCP策定について「荷主と物流事業者が連携したBCP策定のためのガイドライン(※6)」をまとめているため、参考にしてみるとよいでしょう。
金融・保険業は、取引や決済など経済活動に欠かせない業界です。災害時の停電やインターネット回線へのダメージなどにより、システムがダウンすると、多くの業種に影響を及ぼしかねません。
以下は、日本の3大メガバンクのひとつである三菱UFJ銀行のBCP対策の事例です。
・お客さま、職員と家族の安全確保
引用元:業務継続計画|三菱UFJ銀行(※7)
・お客さま及び銀行財産の保全
・被害の状況や影響範囲・程度の早期把握
・業務継続・金融機能の維持(上記3項目を前提に実施)
人命を守ることに加え、取引や決済などのサービスを止めないことがBCP対策の最重要事項となっています。
金融機関のオンライン化が進み、窓口業務に関わる人員が従来よりも削減されてきている状態です。緊急時には人員が少ない中で、どのように対応するのか、十分に検討が必要といえるでしょう。
ITサービス業は、常に安定したサービスの提供が求められています。災害時には、安否確認の手段としても活用される重要なインフラであるため、BCP対策の重要性も高い業界といえます。
以下は、クラウドサービスなどを提供する「Sansan株式会社」の、自然災害や外的破損、人的ミスによるシステム障害などに対するBCP対策事例です。
・複数のサーバーによる負荷の分散や定期的なバックアップ
引用元:リスクマネジメント|Sansan株式会社(※8)
・リアルタイムのアクセスログチェック機能やソフトウエア障害を即時に通知する仕組みの整備
・障害発生時を想定した復旧訓練
リスクを細分化し、BCP対策を策定することで、漏れのない対応が可能となります。
ITサービス業におけるBCP対策の策定には、総務省がまとめた「ICT部門における業務継続計画 訓練事例集(※9)」を参考にするとよいでしょう。
介護業が、災害で事業が停止もしくは通常業務が困難に陥ると、利用者の生活が脅かされます。生命の維持に直結しかねない業界であることから、他業種よりもサービス提供の維持の必要性が求められ、2024年からBCP対策の策定が義務化されました。
以下は、介護サービスを提供する社会福祉法人のBCP対策の事例です。
・利用者・職員の安全確保
・早期の事業再開
・地域との連携
介護業におけるBCP対策は、各施設形態に合わせて策定しなければなりません。厚生労働省では「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修(※10)」として、介護施設・事業所における業務継続ガイドラインなどを提供しています。BCPの策定時に利用してみるとよいでしょう。
BCP対策の策定は、どのような緊急事態に陥っても、事業への影響を最小限に抑え、事業を停止させない、もしくは早急に復旧させるために必要な取り組みです。また、CSR(企業の社会的責任)においても、BCP対策の策定は非常に重要な役割をになっています。
BCP対策は正しく策定しなければ、意味がありません。業界ごとの事例を参考にし、自社にあったBCP対策を策定しましょう。
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